「三重県沖の地震なのに、いちばん揺れたのは福島県?」。2026年11月1日の朝、地震情報を見て首をかしげた人も多いのではないでしょうか。こうした揺れ方は「異常震域」と呼ばれ、震源がとても深い地震でときどき見られます。
この記事では、異常震域の意味と起きる仕組み、11月1日の地震でわかっていること、過去の主な例、地震情報を見るときの注意点を、気象庁の資料と報道をもとに整理します。
異常震域とは、震源の真上ではほとんど揺れないのに、遠く離れた場所で強く揺れる現象です。深さ数百kmの「深発地震」で起き、沈み込んだ海のプレートが揺れを弱めずに遠くまで運ぶことが原因とされています。
異常震域とは?震源の真上より遠くで強く揺れる現象
異常震域は、震源に近い場所よりも、遠く離れた場所のほうが大きな震度になる揺れ方を指す言葉です。ふつうの地震では、震度は震央(震源の真上の地表)を中心に同心円のように広がり、離れるほど小さくなります。異常震域ではこの並びが崩れ、震央の周りはほぼ揺れないのに、数百km先の地域で震度3や4を観測することがあります。ここでは気象庁の説明、「異常」という言葉の受け止め方、起きやすい地震の種類の3点を順に見ていきます。
気象庁による異常震域の説明
気象庁は、震源が非常に深い地震(深発地震)では、震源の真上ではほとんど揺れないのに、震源から離れた場所で揺れを観測することがあると説明しています。こうした特徴的な震度の分布が「異常震域」と呼ばれます。
日本でとくに目立つのは、東北地方や関東地方の太平洋側で揺れが大きくなる形です。2026年11月1日の三重県南東沖の地震でも、最大震度3を観測したのは、震央から直線でおよそ500km以上離れた福島県の沿岸部でした。震央の地名と、強く揺れた地域が大きく食い違う。これが異常震域のいちばんの見分けどころです。
「異常」は地震活動が異常という意味ではない
「異常」という言葉から、何か良くないことが起きているのではと不安になる人もいるかもしれません。しかし気象庁は、異常震域という呼び名は震度の分布の特徴から付けられたもので、発生した地震そのものが異常というわけではないと説明しています。
ウェザーニュースも11月1日の地震について、頻度の低い深発地震に特有の現象で、地震活動そのものは異常ではないと伝えました。つまり「いつもと違う揺れ方をした地震」という意味であって、「地下で異変が起きている」という意味ではありません。言葉の印象だけで受け止めず、揺れ方の名前だと覚えておくと落ち着いて情報を読めます。
深さ数百kmの「深発地震」で起きやすい
異常震域が見られるのは、主に震源の深さが数百kmに達する地震です。こうした地震は深発地震と呼ばれます。深さによる呼び分けは資料によって幅があり、たとえばデジタル大辞泉では、深さ300kmより深いものを深発地震、70km以上300km未満のものを「やや深発地震」としています。
地震が地下数百kmの深さでも起きていることを明らかにしたのは、中央気象台(いまの気象庁)の和達清夫です。研究の第1報は1927年に『気象集誌』で発表されました。和達は、太平洋側から日本列島、日本海の方へ向かって震源が深くなっていく面も見いだしており、この面は現在、沈み込むプレートに対応すると考えられています。
異常震域が起きる仕組み|沈み込んだプレートが揺れを運ぶ
異常震域の原因は、地球の内部で岩盤の性質が場所によって違うことにあります。日本の下には海のプレートが斜めに沈み込んでいて、このプレートは揺れ(地震波)を弱めずに遠くまで伝える性質を持っています。一方、震源の真上へ向かう揺れは、揺れが弱まりやすい部分を通ります。ここでは、沈み込むプレートの形、揺れの伝わりやすさの違い、太平洋側で揺れが大きくなる理由を順に説明します。
日本列島の下に沈み込む太平洋プレート
日本の周りでは、4枚のプレートが接しています。そのうち東から来る太平洋プレートは、日本海溝や伊豆・小笠原海溝から日本列島の下へ沈み込み、陸のプレートやフィリピン海プレートのさらに下を、深く西へ延びています。
沈み込んだプレートの先は、東北地方の下では日本海の地下まで、西日本では紀伊半島や東海地方の沖の地下数百kmにまで達しています。深発地震は、主にこの深く沈んだプレートの内部で起きます。11月1日の三重県南東沖の地震についても、気象庁は、沈み込む太平洋プレートの内部で起きた地震とみています。

プレートは揺れが弱まりにくく、周りのマントルは弱まりやすい
地震の揺れは、ふつう遠くへ伝わるほど弱まっていきます。ところが気象庁によると、沈み込んだ海洋プレートは、地震波をあまり減衰させずに伝えやすい性質を持っています。
沈み込んだプレートは、周りのマントルより冷たく硬い岩盤なので、揺れがよく通ります。硬い鉄の棒の端をたたくと反対の端まで響くのに、やわらかいスポンジは振動を吸い込んでしまう、という違いに近いものです。震源の真上へ向かう揺れは、プレートの上にある温度の高いマントルや陸側の地下を通るため、地表に届くまでに大きく弱まります。
なぜ東北・関東の太平洋側で揺れやすいのか
沈み込んだプレートを道にたとえると、その道は震源から斜め上へ、太平洋側の海溝の方へと続いています。プレートの中を通ってきた揺れは、あまり弱まらないまま東北地方や関東地方の太平洋側の地下に届き、そこで地表を揺らします。
気象庁の資料でも、震源に近い側の地表に届く地震波は減衰しやすい領域を通る一方、太平洋側の地表に届く波は減衰しにくい海洋プレートを通るため、遠く離れた太平洋側で震度が大きくなると説明されています。三重県沖の地震で福島県が揺れ、京都府沖の地震で北海道が揺れたのは、どちらもこの道筋で説明できます。

2026年11月1日の三重県南東沖の地震でわかっていること
11月1日朝の地震は、震源が三重県の沖なのに最大震度3を福島県で観測し、異常震域の典型的な形になりました。ここでは11月1日時点の気象庁の発表と報道をもとに、地震の概要、震央に近い地域より福島県で揺れた理由、南海トラフ地震との関係を整理します。数値は速報段階のもので、後の調査で見直されることがあります。最新の情報は気象庁の発表で確かめてください。
地震の概要(2026年11月1日時点)
気象庁の発表と報道による、地震の概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日時 | 2026年11月1日 7時15分ごろ |
| 震源地 | 三重県南東沖(北緯33.7度、東経137.1度) |
| 震源の深さ | 約350km |
| 規模 | マグニチュード6.1 |
| 最大震度 | 3(福島県大熊町・双葉町・浪江町) |
| 津波 | この地震による津波の心配なし |
| 起きた場所 | 沈み込む太平洋プレートの内部(気象庁の見解) |
震度3の福島県のほか、栃木県や埼玉県などで震度2、岩手県で震度1と、揺れは東日本の広い範囲で観測されました。報道では、北海道から近畿、中国、四国にかけての各地でも揺れが観測されたと伝えられています。
震央に近い三重・愛知より福島で揺れた理由
震央は紀伊半島の南東、三重県の沖合です。震央に近い東海や近畿でも揺れは観測されましたが、報道では岐阜県の瑞穂市や大野町で震度1などと伝えられ、福島県の震度3より小さくとどまりました。
これは前の章で見た仕組みのとおりです。震源は地下約350kmで、真上の地表へ向かう揺れは温度の高いマントルを通って弱まりました。一方、太平洋プレートの中を伝わった揺れは、弱まりにくいまま東北や関東の太平洋側に届いたと考えられます。三重県南東沖では2019年7月28日にも深さ393kmの深発地震(M6.6)があり、そのときも最大震度4を観測したのは宮城県丸森町でした。
南海トラフ地震との関係は?
三重県の沖と聞いて、南海トラフ地震を思い浮かべた人もいるでしょう。ただ、今回の地震と南海トラフ地震とでは、起きる場所の深さとプレートが違います。南海トラフ地震は、フィリピン海プレートと陸のプレートの境目で起きると想定されている地震で、想定される震源域は比較的浅い場所です。今回の地震は、そのさらに下、深さ約350kmの太平洋プレートの内部で起きたと気象庁はみています。
とはいえ、地震どうしの関連を評価するのは、気象庁などの公的機関の役割です。南海トラフ地震に関する情報(臨時情報など)が出ているかどうかは、気象庁のサイトや報道で確かめるようにしましょう。
過去の主な異常震域の例
異常震域は珍しい現象ではあるものの、日本では過去に何度も観測されています。深発地震が起きる場所は限られていて、三重県南東沖や日本海、小笠原諸島の西の沖などで繰り返し起きています。ここでは代表的な例を表にまとめ、規模が大きかった2015年の小笠原諸島西方沖の地震と、遠くで揺れた典型的な例を取り上げます。表の値は気象庁などの資料によるもので、資料によって小さな違いがあります。
| 発生日 | 震源地 | 深さ | 規模 | 主な揺れ |
|---|---|---|---|---|
| 2007年7月16日 | 京都府沖 | 約370km | M6.6〜6.7 | 北海道浦幌町で震度4。震央付近はほぼ無感 |
| 2015年5月30日 | 小笠原諸島西方沖 | 682km | M8.1 | 小笠原村・神奈川県二宮町で震度5強。全都道府県で震度1以上 |
| 2019年7月28日 | 三重県南東沖 | 393km | M6.6 | 宮城県丸森町で震度4。三重県・和歌山県では震度の観測なし |
| 2026年11月1日 | 三重県南東沖 | 約350km | M6.1 | 福島県大熊町などで震度3 |
2015年の小笠原諸島西方沖の地震は全国で揺れた
2015年5月30日20時23分ごろ、小笠原諸島西方沖の深さ682kmで、M8.1の地震が起きました。震源はとても深かったものの規模が大きく、東京都小笠原村(母島)と神奈川県二宮町で震度5強を観測し、全都道府県で震度1以上の揺れが観測されています。
この地震では、東京都や埼玉県、神奈川県などで負傷者が出ました。関東地方を中心に、高い建物をゆっくり大きく揺らす長周期地震動も観測されています。震央から800km以上離れた神奈川県で震度5強になったことは、「深い地震だから被害は出ない」とは言い切れないことを示した例といえます。
京都府沖・三重県南東沖の地震は「遠くで揺れた」典型例
2007年7月16日の夜、京都府沖の深さ約370kmで起きた地震では、震央に近い近畿地方はほぼ揺れを感じず、最大震度4を観測したのは遠く離れた北海道の浦幌町でした。この日の午前には新潟県中越沖地震が起きているので、2つの地震を混同しないよう気をつけてください。
三重県南東沖は、深発地震が繰り返し起きている海域のひとつです。2019年の地震では宮城県丸森町で震度4、2026年の地震では福島県で震度3と、どちらも東北の太平洋側で揺れが大きくなりました。震源の場所と深さが近い地震は、似たような揺れ方をしやすいことがわかります。
異常震域の地震で気をつけたいこと
異常震域の地震は、震央の地名と揺れる地域が大きく離れるため、地震情報の受け取り方に少しコツがいります。深発地震は浅い地震より数が少ないぶん、知らないと戸惑いやすいところです。震度3以上の地域を先に知らせる「震度速報」でも、最初に名前が出るのは震央から遠い地域になることがあります。気をつけたいのは、震源地の名前だけで自分には関係ないと決めつけないこと、地震情報の「深さ」や「津波」の欄をあわせて読むこと、揺れを感じたときの基本の行動を変えないことの3つです。
「震源が遠いから大丈夫」と思い込まない
震源が三重県沖や京都府沖と聞くと、東北や関東に住んでいる人は「自分の地域は関係ない」と感じやすいものです。しかし異常震域では、震央から500km以上離れた地域のほうが強く揺れることがあります。
また、深い地震は浅い地震より揺れが小さくなりがちですが、規模が大きければ話は別です。気象庁も、規模が大きければ遠く離れた場所でも被害を生じることがあるとしています。2015年の小笠原諸島西方沖の地震で関東が震度5強になったのが、その例です。震源地の名前ではなく、自分の地域の震度で判断するようにしましょう。
地震情報の「深さ」と「津波の心配なし」の読み方
異常震域かどうかを見分ける手がかりは、地震情報の「深さ」の欄です。深さが数百kmと書かれていて、しかも震央から離れた地域の震度が大きいときは、異常震域を疑ってよいでしょう。震度の分布図を開くと、震央の周りではなく、東北や関東の太平洋側に色が付いているのがわかります。
津波については、深い地震は海底を大きく動かしにくいため、津波が起きにくいとされます。ただし、津波の有無を自分で判断するのは禁物です。気象庁が出す「この地震による津波の心配はありません」といった文言で、地震ごとに確かめましょう。11月1日の地震でも、気象庁は津波の心配はないと発表しています。
揺れを感じたときの基本の行動
異常震域でも、揺れを感じたときにすることは普段の地震と変わりません。まず頭を守り、揺れが収まるまで無理に動かないこと。そのうえで、テレビやスマートフォンで震源と各地の震度、津波の有無を確かめます。
震度が小さくても、どこで起きたどんな地震だったのかを一度確かめておくと、異常震域のような珍しい揺れ方にも落ち着いて向き合えます。家具の固定や置き場所の見直しといった日ごろの備えは、異常震域かどうかにかかわらず役に立ちます。緊急地震速報のしくみや、遠くで起きた地震を苦手とする理由は、次の記事で詳しく解説しています。

よくある質問
- 異常震域は大きな地震の前ぶれですか?
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気象庁は、異常震域という名前は震度分布の特徴から付いたもので、地震そのものが異常という意味ではないと説明しています。地下の構造によって揺れの伝わり方が変わる現象を指す言葉で、前ぶれやサインを表すものではありません。地震どうしの関連は、気象庁などの発表で確かめてください。
- 異常震域はどのくらい起きていますか?
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はっきり現れるのは、ある程度の規模がある深発地震に限られます。この記事で紹介した京都府沖(2007年)、小笠原諸島西方沖(2015年)、三重県南東沖(2019年・2026年)のほかにも、日本海などの深い地震で観測されてきました。
- 浅い地震でも、震源から遠い場所が強く揺れることはありますか?
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浅い地震でも、地盤のやわらかい場所では揺れが大きくなるため、震源から離れた地域の震度が周りより大きくなることはあります。ただしこれは地表近くの地盤の違いによるもので、深いプレートの中を揺れが伝わる異常震域とは仕組みが違います。
- 異常震域の地震で津波は起きますか?
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深発地震は震源がとても深いため、津波が起きにくいとされています。ただし津波の有無は地震ごとに気象庁が発表するので、自分で判断せず、必ず発表を確かめてください。
まとめ
異常震域は、震源の真上より遠く離れた場所で強く揺れる現象で、深さ数百kmの深発地震で見られます。原因は、日本の下に沈み込んだ太平洋プレートが揺れを弱めずに運ぶ一方、震源の真上へ向かう揺れは弱まりやすい部分を通ることにあります。
2026年11月1日の三重県南東沖の地震(深さ約350km、M6.1)でも、最大震度3を観測したのは震央から離れた福島県でした。三重県南東沖では2019年にも同じ形の揺れ方が起きています。
震源地の名前だけで「遠いから関係ない」と考えず、自分の地域の震度と、地震情報の深さ・津波の欄をあわせて確かめましょう。

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