「モンゴルの自然保護区で大規模な草原火災」「日本企業の子会社の車両から出火か」というニュースを見て、自然保護区とはどんな場所なのか、気になった方も多いのではないでしょうか。モンゴルと聞くと草原を思い浮かべますが、国がどう自然を守っているのかは、日本ではあまり知られていません。
この記事では、モンゴルの保護地域の4つの区分としくみ、2026年10月に火災が起きたヌムルグ自然保護区の場所と経緯、モンゴルを代表する保護区、旅行で訪れるときの決まりを順にまとめました。火災についての内容は2026年10月23日時点の報道にもとづいています。
モンゴルでは国土の約2割が国の保護地域に指定され、規制の強さで4つに分けられています。火災のあったヌムルグは、そのなかで最も規制が厳しい「厳正保護地域」にあたります。
モンゴルの自然保護区とは?国土の約2割を守る4つの区分
モンゴルの自然保護区は、1994年に定められた「特別保護地域法」にもとづいて国が指定する保護地域です。米国の自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)によると、国の保護地域は国土の約21%を占めています。日本の約4倍の国土の、およそ5分の1が守られている計算です。
ここでは、保護地域の4つの区分の違い、ニュースで「自然保護区」と呼ばれたヌムルグが区分上どこに入るのか、そして国土の30%を目指す今後の目標の3点を見ていきます。押さえておきたいのは、日本語の「自然保護区」は報道での呼び名で、法律上の区分名とは必ずしも一致しないという点です。
厳正保護地域・国立公園・自然保護区・自然記念物の違い
特別保護地域法は、国の保護地域を規制の強い順に4つの区分に分けています。日本語訳は資料によって少しずつ違いますが、目的と人の立ち入り方で整理すると次のようになります。
| 区分 | 主な目的 | 人の立ち入り・利用 |
|---|---|---|
| 厳正保護地域 | 手つかずの生態系をそのまま残す | 最も厳しい。中心部は研究などを除き原則として立ち入れない |
| 国立公園 | 自然と歴史・文化の価値を守りつつ活用する | 観光用の区域があり、決められた範囲で訪問できる |
| 自然保護区 | 特定の動植物や資源を守る | 保護の対象を傷つけない範囲で利用が認められる |
| 自然記念物 | 珍しい地形や名所などを個別に守る | 面積が小さく、見学できる場所が多い |
2005年の統計を紹介した論文では、当時の国の保護地域は55か所で、うち厳正保護地域が12か所、国立公園が19か所でした。その後も指定は増え、2019年には議会が新たに22か所の追加を承認したと報じられています。
ヌムルグは区分上「厳正保護地域」=最も規制が厳しい
火災のあったヌムルグは、日本の報道では「ヌムルグ自然保護区」と呼ばれています。ただ、英語の正式名は「Numrug Strictly Protected Area」で、4区分のうち最も厳しい厳正保護地域です。英語の旅行サイトでは「国立公園」と書かれていることもあり、呼び名が混在しています。
厳正保護地域の中は、ほぼ手つかずに残す中心部(コアゾーン)と、その外側の保全・限定利用の区域に分けて管理されます。新華社の報道によると、今回の火はこの中心部で出ました。人の出入りが少ないことを前提にした場所で起きたため、生態系への影響が大きく受け止められています。
国土の30%を目指す保護の目標
モンゴル政府は、保護地域を国土の30%まで広げる目標を掲げています。これは、2022年に国際的に合意された「2030年までに陸と海の30%を保全する」という目標(30by30)とも重なるものです。
2024年4月には、政府とTNCなどが「エターナル・モンゴリア」という資金の枠組みを立ち上げました。15年間で1億9,800万ドルの新たな資金を集め、保護地域の拡大とレンジャーの配置など管理の強化にあてる計画です。指定するだけでなく、見回りや火災への備えを続けるお金をどう確保するかが課題になっていることがわかります。
2026年10月、ヌムルグ自然保護区で何が起きたか
2026年10月8日、モンゴル東部のヌムルグ自然保護区で草原火災が起き、16日朝に鎮火するまで8日あまり燃え続けました。焼けた面積は約52万9,000ヘクタールと発表されています。出火には日本のKDDIの子会社でモンゴルの通信大手「モビコム」の車両が関わったとされ、日本でも大きく報じられました。
この章では、出火から謝罪までの流れを時系列の表で確かめ、焼失面積の大きさを身近な面積と比べたうえで、原因と責任をめぐって報道が分かれている点を整理します。
出火から鎮火・謝罪までの時系列
新華社や日本の各社の報道をもとに、主な出来事を並べると次のとおりです。日付は現地の発表・報道の日付で、報道によって1日程度ずれているものがあります。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 10月7日 | モビコムの日本人幹部らが、車で保護区に入ったと報じられる |
| 10月8日 | 保護区の中心部で、走行中の車両から出火。枯れ草に燃え移り、延焼が始まる |
| 10月12日ごろ | 火が中国との国境に迫る。中国・内モンゴル自治区側が人員を出して国境沿いで食い止める |
| 10月16日朝 | 鎮火。ただし乾燥と強風で再燃のおそれがあると当局が注意を呼びかける |
| 10月18日 | モンゴルの法相が、関係者の責任を問い賠償を求める方針を示したと報じられる |
| 10月20日 | 環境・気候変動省が焼失面積を約52万8,765ヘクタールと発表(新華社) |
| 10月21〜22日 | 親会社のKDDIが「極めて重く受け止めている」と謝罪。事件は警察の捜査に移る |
中国側の発表によると、内モンゴル自治区は3,000人を超える消防などの人員を国境沿いに配置し、火が国境を越えることはなかったとしています。モンゴル側も3つの県から消火隊を集めて対応にあたりました。
焼失約52.9万ヘクタールはどれくらい?
約52万9,000ヘクタールは、およそ5,290平方キロメートルです。東京都の面積(約2,194平方キロメートル)の約2.4倍にあたり、日本の県でいえば愛知県(約5,173平方キロメートル)とほぼ同じ広さが焼けたことになります。
新華社によると、このうち約46万9,000ヘクタールが保護区の中でした。ヌムルグの面積は、2019年に区域が広げられて約58万8,000ヘクタールになっています。つまり、保護区全体の約8割(約79.8%)が焼けた計算です。被害の大きさは、環境・気候変動省の作業部会が動植物への影響も含めて調べています。
原因と責任をめぐる報道
KDDIとモビコムは、保護区に入った目的を「4Gの通信網を整えるための現地調査・通信試験」と説明しています。一方で、現地の一部メディアは、保護区に生息する大型の淡水魚アムールイトウの釣りが目的だったのではないかと報じました。KDDIは、この点について事実確認を進めているとしています。
モンゴル国内では反発が強まり、政府の幹部が「謝っただけでは許されない」と述べたと報じられています。賠償の金額は、作業部会が被害を評価してから決まる流れで、10月23日時点では示されていません。立ち入りの目的や許可の有無など、責任の判断にかかわる点は捜査の結果を待つ必要があります。
ヌムルグ自然保護区はどんな場所?
ヌムルグ自然保護区は、モンゴルの東の端、中国の内モンゴル自治区に突き出した地域にある保護区です。1992年に指定され、モンゴルの草原と、中国東北部の森林地帯が出会う境目にあることから、ほかの地域では見られない動植物が暮らしています。
ここでは、地図の上での位置と周辺の地理、保護区に暮らす動物たち、そして秋の草原で火が広がりやすい理由を順に説明します。ニュースで「希少な動物が暮らす場所」と紹介された背景が、場所と自然の特徴からわかるはずです。

位置:ドルノド県の東端、中国との国境沿い
保護区があるのは、モンゴル東部のドルノド県ハルハゴル郡です。首都ウランバートルからは、直線距離でおよそ900キロメートル離れています。三方を中国の内モンゴル自治区に囲まれ、人がほとんど住んでいない地域です。
保護区の中をデゲー川とヌムルグ川が流れ、合流してハルハ川(ハルハ河)へ注ぎます。同じハルハゴル郡のハルハ川流域は、1939年のノモンハン事件(モンゴル側の呼び名はハルハ河戦争)の舞台になった地域としても知られています。日本との縁が深い土地で、今回の火災が起きたことになります。
草原と森の境目に暮らす動物たち
ヌムルグは、東モンゴルの草原から、中国の大興安嶺につながる松と白樺の森へと移り変わる「移行帯」にあります。2023年に発表された調査論文では、保護区内で57種の哺乳類が確認され、そのうち15種が国内外で絶滅のおそれがある種とされています。
旅行ガイドなどでは、ヘラジカやクマ、カワウソのほか、ツルの仲間が見られる場所として紹介されています。川には、体長1メートルを超えることもある大型のサケ科の魚、アムールイトウ(タイメン)がすみます。森の動物と草原の動物、川の魚が同じ保護区にそろっている点が、ヌムルグの大きな特徴です。

秋の草原で火が広がりやすい理由
モンゴルの草原では、春と秋が火災の多い季節です。秋は夏に伸びた草が立ち枯れ、雨の少ない乾いた空気と強い風が重なります。平らな土地に枯れ草が切れ目なく続くため、いったん火がつくと風に押されて一気に燃え広がりやすくなります。
人が住んでいない地域では、火を見つけるのが遅れがちです。道路も少ないため、消火隊や車両が火の近くまで入るのにも時間がかかります。今回、鎮火までに8日あまりかかり、国境の向こうの中国側まで警戒にあたったのは、こうした条件が重なったためと考えられます。
モンゴルを代表する自然保護区・国立公園
モンゴルには、ヌムルグのほかにも世界的に知られた保護地域がいくつもあります。首都のすぐ南にある世界最古級の保護区、一度は野生から姿を消した馬を草原に戻した国立公園、砂漠に暮らす希少なクマを守る広大な保護区、そして世界自然遺産の2か所です。
ここでは観光地の紹介ではなく、それぞれの場所が「何を守るために指定されたのか」に絞って見ていきます。守る対象を知っておくと、ニュースで保護区の名前が出たときにも、その場所の重みがつかみやすくなります。
ボグド・ハン山:1778年からとされる世界最古級の保護地域
ボグド・ハン山は、ウランバートルの南側にそびえる山で、古くから聖なる山として狩猟や伐採が控えられてきました。世界銀行のブログは、1778年に保護が始まった場所で、米国のイエローストーン国立公園(1872年)より約100年早い「世界最古かもしれない保護地域」と紹介しています。
保護の始まりを、当時の清朝が保護地として認めた1783年とする資料もあり、年には説が分かれます。現在は厳正保護地域に指定され、ユネスコの生物圏保存地域にも登録されています。首都に近いぶん、開発との両立が長く課題になってきました。
ホスタイ国立公園:タヒ(モウコノウマ)の野生復帰
ホスタイ国立公園は、ウランバートルの西およそ100キロメートルにある保護地域です。ここで知られているのが、モンゴル語で「タヒ」と呼ばれる野生の馬、モウコノウマの野生復帰です。タヒは1960年代を最後に野生では見られなくなり、一時は「野生では絶滅した」とされていました。
欧州の動物園で受け継がれてきた個体を1992年から草原に戻す取り組みが始まり、今ではホスタイで数百頭規模の群れが暮らしています。人の手で絶滅の淵から戻した例として、保護区が果たす役割をよく表している場所です。
ゴビ厳正保護区:ゴビグマと野生のフタコブラクダ
南西部のゴビ砂漠に広がる大ゴビ厳正保護区は、1975年に指定された国内最大級の保護地域です。中心となるA地区だけで約4万6,000平方キロメートルあり、九州本島よりも広い面積があります。
ここで守られているのが、砂漠に暮らすヒグマの仲間「ゴビグマ(マザーライ)」です。オアシスの周りだけで生きるクマで、確認されている数は数十頭、最近の推定でも50頭前後とされています。同じ保護区には、絶滅が心配される野生のフタコブラクダもすんでいます。
世界自然遺産:ウヴス・ヌール盆地とダウリアの景観群
モンゴルには世界自然遺産が2件あり、どちらもロシアとの共同登録です。2003年に登録されたウヴス・ヌール盆地は、北西部の塩湖を中心に、12の保護区で構成される約107万ヘクタールの遺産です。砂漠から氷河のある山まで、さまざまな環境が1つの盆地にまとまっています。
もう1件の「ダウリアの景観群」は2017年に登録されました。ヌムルグと同じドルノド県にあるモンゴル・ダグール厳正保護地域を含む、草原と湖の遺産です。渡り鳥や、草原を大移動するモウコガゼルが暮らす東モンゴルの自然が、世界的に評価されていることがわかります。

旅行で保護地域に入るときに知っておきたいこと
モンゴルの国立公園や保護区の多くは、観光で訪れることができます。ただし、入れる区域と入れない区域がはっきり分かれており、入るときにも手続きや決まりがあります。日本の国立公園と同じ感覚で、自由に歩いたり車で走ったりできるわけではありません。
ここでは、入る前の手続きと、保護区の中で特に気をつけたい行動の2つに分けて整理します。料金や許可の条件は保護区ごとに違い、変わることもあるため、旅行会社や現地の公式の案内で最新の情報を確かめてください。
入域料・許可・ガイド同行
国立公園などに入るときは、入口のレンジャー詰所や管理事務所で入域料を払うのが一般的です。厳正保護地域の中心部のように原則として立ち入れない区域もあり、研究や管理の目的でも許可が必要になります。行き先がどの区分の、どの区域にあたるのかを先に確かめておきましょう。
モンゴルの草原や山地は道標が少なく、携帯電話の電波が届かない場所も多くあります。旅行者だけで保護区を回るより、現地の事情に詳しいガイドや運転手と一緒に動くのが安心です。ツアーを選ぶときは、許可の手続きを代行してくれるかどうかも確認しておくとよいでしょう。
火気・車の乗り入れ・釣りと狩猟の制限
保護区の中で特に気をつけたいのが火の扱いです。たき火は決められた場所以外では行わず、たばこの吸い殻も必ず持ち帰ります。乾いた季節の草原は、小さな火でも大きな火災につながります。また、車のマフラーなどは走行中に高温になるため、枯れ草の多い場所に車を止めたり、乗り入れたりしないことも大切です。
道のない草原を車で走ると、わだちが長く残り、植物が育ちにくくなります。決められた道から外れないようにしましょう。釣りや狩猟は保護区の多くで禁止されるか、許可が必要です。アムールイトウのように保護の対象になっている魚もいるため、釣りを考えるなら事前に許可と決まりを確かめてください。
- 入る前:区分と区域、入域料、許可の要否を確かめる
- 中では:火を使わない、車は決められた道だけを走る
- 動植物:採らない・釣らない・近づきすぎない

よくある質問
- モンゴルの「自然保護区」と「国立公園」はどう違いますか?
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法律上の区分では、国立公園は自然と文化を守りながら観光にも使う場所で、自然保護区は特定の動植物や資源を守る場所です。ただし日本の報道では、区分に関係なく保護地域をまとめて「自然保護区」と呼ぶことが多く、ヌムルグも正式には最も厳しい「厳正保護地域」です。
- ヌムルグ自然保護区の火災はもう消えましたか?
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新華社の報道によると、2026年10月16日の朝に鎮火しました。KDDIも鎮火を確認したとしています。ただし当局は、乾燥と強風で再び燃え出すおそれがあるとして警戒を続けていました(10月23日時点の情報)。
- 賠償はどうなりますか?
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モンゴル政府は責任を問い、賠償を求める方針を示しています。金額は、環境・気候変動省の作業部会が被害を評価したあとに決まる流れで、10月23日時点では公表されていません。原因の判断も、警察の捜査の結果を待つ段階です。
- 日本人の旅行者もモンゴルの保護区に入れますか?
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国立公園などの観光用の区域には、入域料を払えば入れるところが多くあります。厳正保護地域の中心部のように、原則として立ち入れない区域もあります。行き先ごとに条件が違うため、旅行会社や現地の公式の案内で確かめてください。
- 焼けた草原は元に戻りますか?
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一般に、草原は根が残っていれば翌年以降に再び芽を出すことが多い一方、森林は元の姿に戻るまでに長い年月がかかります。ヌムルグは草原と森林の両方を含むため、どこまで回復するかは作業部会の調査結果を待つ必要があります。
まとめ
モンゴルの自然保護区は、特別保護地域法にもとづく国の保護地域で、国土の約2割を占めています。厳正保護地域・国立公園・自然保護区・自然記念物の4区分があり、政府は国土の30%まで広げる目標を掲げています。
2026年10月に火災が起きたヌムルグは、草原と森の境目にある厳正保護地域で、保護区の約8割にあたる面積が焼けました。原因と責任は捜査中で、立ち入りの目的についても説明と報道が分かれています。ボグド・ハン山やホスタイ、大ゴビのように、モンゴルには守る対象のはっきりした保護区がほかにもあります。
保護区は、区分ごとに入れる場所と、してよいことが決まっている場所です。旅行で訪れるときは、行き先の区分と許可を確かめ、火と車の扱いに気をつけることが、草原の自然を守ることにつながります。

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