ニュースで「イコールアース図法」という名前を聞いて、そんな地図があったのかと驚いた方は多いのではないでしょうか。実はこの図法、2018年に発表されたばかりの新しい世界地図です。面積の比率が正しく保たれるうえに、大陸の形が見慣れた姿に近いという特徴を持っています。この記事では、イコールアース図法がどんな地図なのかという基本から、生まれたきっかけ、見た目の見分け方、NASAをはじめとした実際の使われ方、そして無料で手に入れる方法までを順に整理します。読み終えるころには、この地図を自分で選んで使えるようになるはずです。
イコールアース図法とは?「面積が正しい世界地図」の意味
イコールアース図法とは、地図上のどこでも実際の面積比が正しく表される世界地図の描き方です。2018年に3人の地図研究者が発表した、比較的新しい図法にあたります。国や大陸の広さをそのままの比率で見比べられる点が最大の持ち味です。
ただし、正しいのは面積だけです。角度や距離は正確ではないため、航海や道案内には向きません。何を正しく描くかを選んだ結果として、ほかを犠牲にしている。地図の世界では当たり前のこの割り切りが、この図法にもあてはまります。
名前の読み方と「Equal Earth」の意味
読み方はそのまま「イコールアースずほう」です。英語の名称は Equal Earth projection で、日本語では「イコールアース図法」と表記されます。人名に由来するメルカトル図法などとは違い、性質をそのまま名前にした図法です。
Equal は「等しい」、Earth は「地球」。面積の扱いにおいて地球上のどこも等しく描く、という意味が込められています。専門用語では、この性質を持つ図法をまとめて正積図法と呼びます。
「正積図法」の仲間という位置づけ
正積図法は一つではありません。教科書に載っているモルワイデ図法やサンソン図法、議論の的になったゴール・ピーターズ図法も、すべて面積が正しい図法の仲間です。イコールアース図法は、その系譜にあとから加わった一つといえます。
分類としては擬円筒図法にあたります。緯線は水平な直線で、中央の経線だけが直線、そのほかの経線は外側へゆるやかに湾曲する——という形の一群です。モルワイデ図法と親戚関係にある、と考えるとイメージしやすいでしょう。
2018年生まれ|イコールアース図法が作られたきっかけ
イコールアース図法が生まれた直接のきっかけは、2017年にアメリカで起きた学校の地図をめぐる論争でした。「面積を正しく見せたい。でも見た目が受け入れられる地図がない」という行き詰まりを解消するために、研究者たちが自分たちで新しい図法を設計したのです。既存の図法から選ぶのではなく、必要に迫られて作られた地図だといえます。
発端は2017年・学校の世界地図をめぐる論争
2017年3月、アメリカのボストン市の公立学校が、授業で使う世界地図をゴール・ピーターズ図法に切り替えると発表しました。赤道付近の地域が実際より小さく見える状態を改めたい、という狙いによるものです。
ところがこの決定は、地図学の世界で議論を呼びます。ゴール・ピーターズ図法は面積こそ正しいものの、大陸が縦に引き伸ばされたような形になり、極地方のゆがみが大きいためです。面積の問題を直したら、今度は形が大きく崩れてしまった。そんな状態でした。
3人の研究者が「見た目」で妥協しなかった
この議論を受けて、アメリカ国立公園局に勤めていた地図製作者のトム・パターソン氏が、代わりになる正積図法を探し始めました。しかし、学校や団体に安心してすすめられる見た目のものが見つかりません。そこで、モナシュ大学のベルンハルト・イェニー氏と、地図ソフト会社に所属するボヤン・シャヴリッチ氏に声をかけます。
3人が目指したのは、面積の正しさを保ったまま、世界地図として自然に見える形でした。参考にしたのが、教科書や図鑑で広く使われてきたロビンソン図法です。あの落ち着いた見た目の特徴——極が点ではなく線になること、経線が外へふくらみすぎないこと、縦横比がおよそ1対2であること——を条件として設定し、それを満たしながら正積になる数式を組み立てました。
完成した図法をまとめた論文は、2018年8月に地理情報科学の国際専門誌『International Journal of Geographical Information Science』に掲載されました。世界地図の歴史からすれば、ごく最近の出来事です。
イコールアース図法は「面積の正しさ」と「見慣れた形」の両立をねらって設計された地図です。この成り立ちを知ると、なぜ採用が広がったのかが見えてきます。
見た目でわかるイコールアース図法の特徴
イコールアース図法の地図は、いくつかの手がかりで見分けられます。ポイントは、緯線と経線の描かれ方、そして地図の上下の端の形です。世界地図を見かけたときに確認できるよう、特徴を整理しておきましょう。
緯線・経線・極の形にあらわれる特徴
緯線はすべて水平な直線ですが、間隔は一定ではありません。赤道から離れるほど、緯線どうしの間隔がだんだん狭くなります。これは、横方向に縮む分を縦方向でつじつま合わせして、面積を保つための仕組みです。
経線は中央の1本だけが直線で、そこから離れるほど外側へ弓なりに湾曲します。間隔は等しく取られているため、全体としてゆるやかな樽のような輪郭になります。そして地図の上端と下端、つまり北極と南極は点ではなく短い横線として描かれます。
| 部分 | イコールアース図法での描かれ方 |
|---|---|
| 緯線 | 水平な直線。高緯度ほど間隔が狭くなる |
| 中央経線 | 直線。地図の中心を縦に貫く |
| そのほかの経線 | 等間隔で、外側へゆるやかに湾曲する |
| 北極・南極 | 点ではなく短い横線として描かれる |
| 全体の輪郭 | 角が丸い樽のような形。縦横比はおよそ1対2 |

ロビンソン図法に似ているが中身は別物
見た目がよく似ているのがロビンソン図法です。1960年代に発表され、地図帳や壁掛け地図で長く使われてきました。輪郭のやわらかさや極が線になる点など、共通する要素がいくつもあります。
ただし、両者の中身は決定的に違います。ロビンソン図法は面積も角度も厳密には正しくない、見た目のバランス重視の図法です。対してイコールアース図法は、面積の正しさを数式で保証しています。見た目はロビンソン図法、中身は正積図法というのが、この図法の立ち位置です。
球面である地球を平面に写す以上、どこかにゆがみは必ず生まれます。天体や地球のしくみが関わる話題は、身近なようで意外と知らないことが多いものです。

どこで使われている?NASAから地図ソフトまで
イコールアース図法は、発表からわずか数年で実務の現場に広がりました。とくに、世界全体のデータを一枚の地図に重ねて見せる分野で採用が進んでいます。面積が正しいという性質が、そのまま説得力につながる場面だからです。
最初の主題図はNASAの世界気温マップ
この図法を使って公開されたと確認できる最初の主題図は、NASAのゴダード宇宙研究所(GISS)が作成した2018年7月の世界平均気温の偏差を示す地図でした。図法の論文が世に出たのとほぼ同時期です。
気温や降水量のように、地球全体の分布を色分けして見せる地図では、面積のゆがみがそのまま印象のゆがみになります。高緯度の色面が実際より広く見えれば、変化の規模を過大に受け取ってしまうかもしれません。正積図法が選ばれるのは、こうした誤読を避けるためです。
NASA GISSは、さまざまな図法を切り替えて地図を描ける「G.Projector」という無料ソフトも公開しており、そこにもイコールアース図法が収録されています。
主要な地図ソフトに標準搭載されている
専門家向けの地図ソフトでも、イコールアース図法はすでに標準的な選択肢です。無償で使えるQGIS、業務で広く使われるArcGIS、Webの地図表現で使われるD3といったツールで、設定から選ぶだけで利用できます。
- 座標変換ライブラリ PROJ(投影法の指定名は eqearth)
- 地理情報システム QGIS・ArcGIS Pro
- データ可視化ライブラリ D3(地図描画の拡張機能)
- NASA GISS の地図描画ソフト G.Projector
発表から短期間でこれだけの環境に組み込まれた背景には、図法の計算式が公開され、誰でも自由に実装できる形で提供されたことがあります。使いたい人が使える状態になっていた、というわけです。
無料で手に入る|イコールアース図法の地図を使う方法
イコールアース図法の世界地図は、専門ソフトを持っていなくても無料で入手できます。開発者の一人であるトム・パターソン氏が、壁掛けサイズの世界地図をパブリックドメイン(著作権を主張しない状態)で公開しているためです。
パブリックドメインの壁掛け地図がある
公開されているのは、地形を色分けした自然地図(Physical Map)と、国境を示した政治地図(Political Map)の2種類です。いずれも幅約1.4メートルの壁掛けサイズを想定した高解像度データで、公式サイト「equal-earth.com」やウィキメディア・コモンズからダウンロードできます。
パブリックドメインなので、印刷して掲示するのはもちろん、内容を加工すること、印刷物として販売することまで自由に認められています。学校の掲示物や自由研究の資料、社内の資料づくりにも使いやすい条件です。
使うときに知っておきたい注意点
便利な地図ですが、万能ではありません。正積を優先している以上、角度と距離は正しく表せないからです。2地点を直線で結んでも、その向きは実際の方位と一致しませんし、長さも実際の距離の比を表しません。
したがって、航路や進行方向を考える用途には使えません。街なかの案内図のように、狭い範囲を詳しく見る目的にも向いていません。この図法が力を発揮するのは、あくまで世界全体を一枚で見せる場面です。
| 用途 | イコールアース図法の適性 |
|---|---|
| 国や大陸の広さを比べる | 向いている |
| 気温・人口などの世界分布図 | 向いている |
| 教材・掲示用の世界地図 | 向いている |
| 航海・航空の進路を決める | 向いていない(角度が正しくない) |
| 市街地を拡大して見る | 向いていない(世界全体向けの図法) |
角度が正しいメルカトル図法とは、得意分野がきれいに裏返しの関係にあります。なぜメルカトル図法で面積がゆがむのか、その仕組みと国連決議の経緯は次の記事で詳しく整理しています。

国連決議で日本の教科書や地図帳は変わる?
イコールアース図法が急に注目されたのは、2026年9月4日に国連総会で採択された決議がきっかけです。面積が正しく表される地図の使用を各国に促す内容で、報道によれば賛成164か国・反対1か国・棄権6か国で採択され、日本は賛成しています。ただし、この決議に法的な拘束力はありません。※本記事は2026年9月8日時点の情報です。
拘束力がないということは、教科書や地図帳の差し替えが義務づけられるわけではない、という意味です。日本の教科書は検定と採択の手続きを経て使われるため、内容の変更にはもともと一定の時間がかかります。現時点で、いつどの教材がどう変わるかは決まっていません。
もっとも、日本の地図帳はこれまでも複数の図法を併載してきました。メルカトル図法だけを載せてきたわけではなく、正積図法や正距方位図法も目的別に紹介されています。イコールアース図法が加われば選択肢が一つ増える、という形になるでしょう。
教材のデジタル化が進めば、地図の差し替え自体は以前より柔軟に行えるようになります。教科書がこれからどう変わっていくのかは、それ自体が一つの大きなテーマです。

イコールアース図法についてよくある質問
- イコールアース図法はいつ誰が作ったのですか?
-
2018年に、トム・パターソン氏・ベルンハルト・イェニー氏・ボヤン・シャヴリッチ氏の3人が発表しました。論文は同年8月の地理情報科学の専門誌に掲載されています。
- イコールアース図法で正しく表されるのは何ですか?
-
面積の比率です。地図上のどこでも実際との面積比が等しく保たれます。一方で、角度と距離は正しく表されません。
- モルワイデ図法とは何が違うのですか?
-
どちらも面積が正しい擬円筒図法ですが、輪郭の形が異なります。モルワイデ図法は楕円形で両極が点になるのに対し、イコールアース図法は両極が短い横線になり、高緯度の陸地の形がつぶれにくくなっています。
- イコールアース図法の地図は無料で使えますか?
-
開発者が公開している壁掛けサイズの世界地図がパブリックドメインで提供されており、加工や商用利用も認められています。利用前に配布元のライセンス表示を確認してください。
- これからメルカトル図法は使われなくなるのですか?
-
2026年9月の国連総会決議に法的拘束力はなく、メルカトル図法の使用を禁じるものでもありません。角度が正しいという性質は航海や道案内で必要とされるため、目的に応じた使い分けは今後も続くと考えられます。
まとめ
イコールアース図法は、2018年に3人の地図研究者が発表した正積図法です。面積の正しさを保ちながら、ロビンソン図法のような見慣れた輪郭に近づけることを目標に設計されました。学校で使う世界地図をめぐる論争が、その出発点になっています。
発表後はNASAの気温分布図をはじめ、QGISやArcGISといった地図ソフトにも次々と採用されました。開発者による壁掛け地図がパブリックドメインで公開されているため、誰でも無料でダウンロードして使えます。
面積を比べたいときはイコールアース図法、進む向きを知りたいときはメルカトル図法。目的で地図を選び分けられるようになると、世界地図の見え方が少し変わってきます。

コメント