地図アプリで世界を眺めたとき、グリーンランドがやけに大きく見えて不思議に思ったことはありませんか。その見え方をつくっているのが、16世紀に生まれたメルカトル図法です。角度が正しく保たれるという大きな長所の代わりに、高緯度ほど面積が大きく描かれるという癖を持っています。この記事では、メルカトル図法の基本と面積がゆがむしくみを数字で確認し、モルワイデ図法や正距方位図法との使い分け、スマホの地図に使われているWebメルカトル、そして2026年9月に国連総会で採択された決議までを順に整理します。読み終えるころには、世界地図の「見え方の癖」を自分で説明できるようになるはずです。
メルカトル図法とは?角度が正しい「航海のための世界地図」
メルカトル図法とは、地球を円筒に投影して描く「正角円筒図法」のことです。最大の特徴は、地図上のどの場所でも角度が正しく保たれること。そのかわり、面積や距離は正しく表せません。教科書で「航海に使われた地図」と紹介されるのは、船が進む向きを正確に読み取れる点が評価されたからです。
見た目の特徴もはっきりしています。経線(縦線)はすべて等間隔の平行な直線になり、緯線(横線)はそれと直角に交わる平行な直線になります。方眼紙のようにきれいな格子が並ぶ世界地図は、たいていこの図法だと考えてよいでしょう。
1569年にメルカトルが発表した図法
名前の由来は、フランドル地方(現在のベルギー付近)出身の地理学者ゲラルドゥス・メルカトルです。1569年に刊行した世界地図でこの図法を初めて用いたことから、その名で呼ばれるようになりました。大航海時代のただ中で、遠洋を航海する船乗りに向けてつくられた地図だったわけです。
当時の航海術では、コンパスが示す方位が頼りでした。地球は丸いのに、船は「北東へ進む」といった一定の向きで舵を取ります。この二つを結びつけるには、角度を正しく写し取れる地図が必要だったのです。メルカトル図法は、その要求に応えるために設計された道具だったといえます。
等角航路が直線になるから舵を保てる
メルカトル図法の実用的な価値は、等角航路(すべての経線と同じ角度で交わる進路)が地図上で直線になるところにあります。出発地と目的地を定規で結び、その線が経線となす角度を読み取れば、あとはその舵角を保って進めば目的地に着けるという理屈です。
球面の上を一定の角度で進む航路は、本来はゆるやかな曲線を描きます。それを直線として扱えるようにしたのが、この図法の発明でした。計算機のない時代に、定規とコンパスだけで進路を決められる。これは船乗りにとって画期的な便利さだったはずです。
なぜ高緯度ほど大きく見える?ゆがみのしくみを数字で
メルカトル図法で面積がゆがむ理由は、「緯線をすべて同じ長さに引き伸ばしているから」の一言に尽きます。角度を正しく保つという条件を満たすために、横に伸ばした分だけ縦にも伸ばす必要があり、その結果として高緯度の面積がふくらむのです。順番に見ていきましょう。
緯線をすべて赤道と同じ長さに引き伸ばしている
地球儀を思い浮かべてください。赤道がいちばん長く、北や南へ向かうほど緯線の輪は小さくなります。ところがメルカトル図法の地図では、どの緯線も同じ長さの横線として描かれます。つまり、高緯度の緯線ほど大きく横に引き伸ばされているわけです。
ここで横だけを伸ばすと、陸地の形が左右につぶれて角度が狂ってしまいます。それを避けるため、縦方向にも同じ倍率で伸ばす。この操作によって形と角度は保たれますが、縦横ともに拡大されるので面積は倍率の2乗でふくらむことになります。
緯度60度で面積は約4倍、日本付近でも約1.5倍
具体的な数字で確かめると納得しやすくなります。緯度60度の緯線は、本来の長さが赤道の半分です。それを赤道と同じ長さまで引き伸ばすので横は2倍、縦も2倍、面積は2×2で約4倍になります。北欧やカナダが実際よりずっと広く見えるのは、このためです。
| おおよその緯度 | あてはまる地域の例 | 長さの拡大 | 面積の拡大 |
|---|---|---|---|
| 0度 | 赤道付近(ケニア・エクアドル) | 1倍 | 1倍 |
| 35度 | 日本の本州付近 | 約1.2倍 | 約1.5倍 |
| 60度 | 北欧・カナダ南部 | 2倍 | 約4倍 |
| 75度 | グリーンランド中部 | 約3.9倍 | 約15倍 |
日本が位置する北緯35度あたりでも、面積はすでに約1.5倍に描かれています。ふだん見慣れた日本列島の形も、実は少しふくらんだ姿だということになります。

グリーンランドとアフリカ、実際は約14倍の差
この性質がいちばん劇的に現れるのが、グリーンランドとアフリカ大陸の比較です。実際の面積はグリーンランドが約217万平方キロメートル、アフリカ大陸が約3,037万平方キロメートルで、その差はおよそ14倍にもなります。ところがメルカトル図法の世界地図では、両者がほぼ同じくらいの大きさに見えてしまいます。
極に近づくほど拡大率は際限なく大きくなり、北極点と南極点は理論上どこまでも引き伸ばされて地図に収まりません。そのため一般的なメルカトル図法の世界地図は、南北の緯度85度前後で切り取って描かれています。世界地図の上下が四角く切れているのは、この事情によるものです。
メルカトル図法は「面積が間違っている地図」ではなく、角度を正しくするために面積を犠牲にした地図です。何を優先したのかを知ると、見え方の癖が理解しやすくなります。
同じように「しくみが分かると見え方が変わる」現象として、天体の動きも身近な例です。

メルカトル図法のメリットとデメリットを整理
ここまでの内容を、長所と短所として一覧にまとめます。図法を選ぶときは「何を正しく表したいのか」で判断するのが基本です。メルカトル図法が向く場面と、向かない場面をはっきり分けて覚えておくと迷いません。
| 観点 | メルカトル図法の性質 |
|---|---|
| 角度・方位 | 正しい(正角図法)。等角航路が直線になる |
| 面積 | 正しくない。高緯度ほど拡大される |
| 距離 | 正しくない。緯度によって縮尺が変わる |
| 形 | 狭い範囲ではほぼ保たれる。大陸規模では引き伸ばされる |
| 極地 | 描けない。緯度85度前後で切って表示する |
表のとおり、正しいのは角度だけです。逆にいえば、角度さえ正しければ用が足りる場面ではこれ以上に使いやすい図法はありません。海図として長く使われてきたのは、その実務的な強さの証拠でもあります。
- 向いている:航海図、街や地域を拡大して見る地図、進む向きを知りたい場面
- 向いていない:国や大陸の広さを比べる、分布図をつくる、極地を含む地図
- 注意したい:面積や距離を「見た目」で判断してしまう場面
モルワイデ図法・正距方位図法との違いと使い分け
中学や高校の地理で、メルカトル図法とセットで登場するのがモルワイデ図法と正距方位図法です。三つの違いは「何を正しく表す図法か」で整理できます。まず一覧で押さえてしまいましょう。
| 図法 | 正しく表せるもの | 見た目の特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| メルカトル図法 | 角度・方位 | 経線と緯線が直角に交わる長方形 | 海図・航路図 |
| モルワイデ図法 | 面積 | 楕円形で、経線が中央ほど直線に近い | 分布図・統計地図 |
| 正距方位図法 | 中心からの距離と方位 | 円形で、外側ほど形がゆがむ | 航空図 |
面積を比べたいならモルワイデ図法
モルワイデ図法は、地図上のどこでも実際との面積比が等しくなる「正積図法」の一つです。人口の分布や農産物の生産量など、広さと量を重ねて見せたい地図に向いています。楕円形の世界地図を教科書で見かけたら、たいていはこの仲間だと考えてよいでしょう。
そのかわり、角度は正しくありません。中心から離れた場所ほど陸地の形がななめに傾いて見えます。面積を優先した結果として形が犠牲になっている、という関係です。
距離と方位を知りたいなら正距方位図法
正距方位図法は、地図の中心から任意の地点までの距離と方位が正しく表される図法です。中心と結んだ直線が最短経路にあたるため、航空路を考えるときに使われてきました。ただし正しいのは中心からの距離と方位だけで、中心を通らない2地点の関係は正しくありません。
ここまで見てきたとおり、球面である地球を平面に写す以上、角度・面積・距離をすべて同時に正しくすることはできません。どれを立てるかで図法が分かれる、というのが地図の基本的な考え方です。だからこそ「正しい世界地図が一つだけある」わけではありません。
スマホの地図もメルカトル?Webメルカトルのしくみ
ふだん使っている地図アプリの多くも、メルカトル図法の仲間を採用しています。Web地図向けに調整されたものは「Webメルカトル」と呼ばれ、識別番号のEPSG:3857で示されます。主要な地図サービスの多くがこの方式で描画しているため、画面上のゆがみ方も基本的にメルカトル図法と同じです。
拡大しても形が崩れないから選ばれた
Web地図が正角図法を選んだ理由は、操作性にあります。角度が保たれる図法では、どこをどれだけ拡大しても道路の交差角や区画の形が自然に見えます。街を拡大して道順を確認する使い方に、この性質がぴったり合ったのです。
もう一つの理由は、計算のしやすさです。地図を正方形のタイルに分割して配信する仕組みと相性がよく、拡大縮小のたびに複雑な変換をしなくて済みます。表示速度が求められるWeb地図にとって、これは大きな利点でした。
面積を目分量で比べてはいけない
一方で、注意すべき点も引き継いでいます。地図アプリの画面上で二つの土地の広さを見比べても、緯度が違えば正しい比較になりません。前の章で見たとおり、日本付近でも面積は約1.5倍にふくらんでいます。緯度が離れた地域どうしを目分量で比べるのは避けたほうが安全です。
また、Webメルカトルでも極付近は表示できません。南北の緯度85度あたりで切られているため、北極や南極を真上から見たい場合は、別の図法で描かれた地図を使うことになります。
地図の読み方という意味では、防災の場面で使う地図にも同じことがいえます。目的に合った地図を選ぶ習慣をつけておくと安心です。

国連が「イコールアース図法を」2026年9月の決議
2026年9月4日、国連総会でメルカトル図法に関する決議が採択されました。内容は、面積が正しく表される「イコールアース図法」の使用を各国に促すというものです。報道によれば、西アフリカのトーゴが主導し、賛成164か国・反対1か国(アメリカ)・棄権6か国で採択されました。日本は賛成しています。※本記事は2026年9月7日時点の情報です。
決議の背景にある「Correct the Map」
この決議の下地になったのが、2025年にアフリカのNGOが立ち上げた「Correct the Map」というキャンペーンです。メルカトル図法ではアフリカ大陸が実際より小さく見え、教育や報道、政策の場でその印象が定着してしまうという問題意識から始まりました。前の章で見た「アフリカとグリーンランドが同じ大きさに見える」現象が、まさに議論の出発点です。
なお、この決議に法的な拘束力はありません。各国の政府や国際機関に、地図を差し替える義務が生じるわけではないという点は押さえておきましょう。
イコールアース図法とはどんな地図か
イコールアース図法は、地図上のどこでも実際の面積比が等しくなる正積図法の一種です。2018年に発表された比較的新しい図法で、モルワイデ図法と同じ「擬円筒図法」の仲間にあたります。正積図法でありながら大陸の形が見慣れた姿に近く、世界全体を一枚で見せる用途に向いているとされます。
ただし、こちらも万能ではありません。正積を優先しているため角度は正しくならず、航海や道案内には使えないからです。今後どの地図がどこまで置き換わるかは、各国や各機関の判断によります。用途ごとに図法が使い分けられるという構図そのものは、これからも変わらないでしょう。

世界の見え方という点では、地図とあわせて世界遺産の分布を眺めてみるのも面白い切り口です。

決議で名前が挙がったイコールアース図法そのものについては、誕生のいきさつや実際に使われている場面を別の記事で詳しくまとめています。

メルカトル図法についてよくある質問
- メルカトル図法で正しく表されるのは何ですか?
-
角度(方位)です。地図上のどこでも角度が正しく保たれるため、等角航路が直線として表されます。一方で面積と距離は正しくありません。
- なぜグリーンランドが実際より大きく見えるのですか?
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高緯度の緯線を赤道と同じ長さまで引き伸ばし、角度を保つために縦にも同じ倍率で伸ばしているからです。面積は倍率の2乗で拡大されるため、極に近い地域ほど大きく描かれます。
- メルカトル図法で北極点や南極点は描けますか?
-
描けません。極に近づくほど拡大率が際限なく大きくなるためです。一般的な世界地図は、南北の緯度85度前後で切り取って表示しています。
- 地図アプリもメルカトル図法ですか?
-
多くのWeb地図は、メルカトル図法を調整した「Webメルカトル」(EPSG:3857)を使っています。拡大しても形が崩れず、タイル配信の仕組みと相性がよいためです。面積のゆがみ方は元の図法と同じです。
- メルカトル図法はもう使われなくなるのですか?
-
2026年9月の国連総会決議には法的拘束力がなく、地図の差し替えを義務づけるものではありません。角度が正しいという性質は航海や道案内で必要とされるため、用途に応じた使い分けは今後も続くと考えられます。
まとめ
メルカトル図法は、1569年にゲラルドゥス・メルカトルが発表した正角円筒図法です。角度が正しく保たれ、等角航路が直線になるため、航海用の地図として長く使われてきました。そのかわり、高緯度の緯線を引き伸ばすしくみ上、面積は倍率の2乗でふくらみます。緯度60度で約4倍、日本付近でも約1.5倍という具合です。
面積を比べたいときはモルワイデ図法やイコールアース図法などの正積図法、中心からの距離と方位を知りたいときは正距方位図法と、目的で使い分けるのが地図の基本です。球面を平面に写す以上、すべてを同時に正しくすることはできません。
世界地図を見るときは「この地図は何を正しく描いているのか」を一度考えてみてください。それだけで、地図から読み取れる情報の確かさがぐんと変わります。

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