「修学旅行の紀行文を書いてきなさい」と言われて、原稿用紙の前で手が止まっていませんか。作文なら書けるのに、紀行文と言われた途端、何をどう並べればいいのかわからなくなる。毎年この課題でつまずく人は少なくありません。
この記事では、紀行文の意味と作文との違いを整理したうえで、5つのステップで書き上げる手順をまとめました。400字・800字・1200字それぞれの段落配分、そのまま型として使える書き出しと結びの文例、小学生から高校生までの例文3本も用意しています。
先に結論をお伝えすると、紀行文は「行った順に出来事を並べる文章」ではありません。行程という道筋の上に、心が動いた場面をひとつだけ置く。この形が決まれば、あとは書き出しと結びを型に当てはめるだけで仕上がります。
紀行文とは?作文・感想文との違いを先に押さえる
紀行文とは、旅の道のりに沿って、見聞きした事実と、そのとき心が動いたことを書きとめた文章です。旅先の記録と書き手の心情、この2つがそろってはじめて紀行文になります。どちらかが欠けると、旅程表か感想文のどちらかに寄ってしまいます。
「事実」と「心の動き」の二本立てでできている
紀行文の骨組みは単純です。まず「いつ、どこで、何を見たか」という事実があります。そこに「そのとき自分は何を思ったか」が重なります。この二層構造こそが、紀行文というジャンルの正体です。
事実だけを並べると、旅のしおりの写しになります。逆に心情だけを書くと、どこへ行った話なのか読み手に伝わりません。両方を交互に配置する意識を持つと、文章にリズムが生まれます。
作文・読書感想文・日記との違い早見表
似た課題と並べると、紀行文の輪郭がはっきりします。もっとも近いのは「旅行の作文」ですが、紀行文は行程という時間の流れを土台にする点が違います。
| 種類 | 土台になるもの | 中心に書くこと |
|---|---|---|
| 紀行文 | 旅の行程(時間と場所の移動) | 見聞きした事実+心の動き |
| 作文(思い出) | ひとつの出来事 | その出来事と自分の変化 |
| 読書感想文 | 本の内容 | 読んで考えたこと |
| 日記 | 一日の時間 | 起きたことの記録 |
| レポート | 調べた事実 | 資料にもとづく分析 |
この表でいちばん大事なのは「土台になるもの」の列です。紀行文だけが移動を土台にしています。だから場所が変われば段落も変わる、という書き方が自然に成立します。
「おくのほそ道」も紀行文|名作に共通する型
紀行文は古くからある文章の形です。松尾芭蕉の『おくのほそ道』、紀貫之の『土佐日記』は、いずれも旅の道筋に沿って書かれた紀行文として知られています。
これらに共通するのは、地名や道のりといった事実を淡々と記したうえで、要所で俳句や和歌によって心情を差し込む構成です。全編が感動の言葉で埋まっているわけではありません。むしろ事実の記述が土台にあるからこそ、ときおり現れる心情の一行が際立ちます。
紀行文の書き方5ステップ
紀行文は、いきなり原稿用紙に向かうと必ず手が止まります。書き出す前の準備で8割が決まると考えてください。次の5ステップの順に進めれば、材料集めから清書までが一本の線でつながります。
まず、旅のしおりや写真を見ながら、訪れた場所を順番に書き出します。「9時 出発/11時 東大寺/13時 昼食/15時 奈良公園」といった箇条書きで構いません。ここは思い出す作業なので、感想はまだ書かなくて大丈夫です。
書き出した行程を眺めて、いちばん印象に残っている場面に丸をつけます。楽しかった場面でも、意外だった場面でも構いません。ここで2つも3つも選ばないことが大切です。焦点がぼやけると、行程の丸写しに戻ってしまいます。
丸をつけた場面について、見たもの・聞こえた音・においや味・肌で感じたことを思い出せるだけ書き出します。「大仏が思ったより黒かった」「線香のにおいがした」など、断片で十分です。この五感メモが、あとで文章の厚みになります。
「はじめ(旅の入り口)・なか(行程と山場)・おわり(学びと余韻)」の3つに材料を割り振ります。行程はすべて書かず、山場に向かう道筋になる場所だけを残します。ここで捨てる勇気を持つと、文章が締まります。
書き終えたら、事実の文に線を引いてみてください。線が引けない段落が続いていたら、感想が多すぎるサインです。逆に線ばかりなら心情を足します。この確認だけで、紀行文らしさが一段上がります。
字数別・紀行文の構成テンプレート

紀行文の課題は字数指定つきで出されることがほとんどです。字数によって「行程をいくつ書けるか」が変わるので、先に段落配分を決めてしまうのが近道になります。次の表を骨組みとして使ってください。
| 字数 | 原稿用紙 | 段落数の目安 | 書ける行程の数 |
|---|---|---|---|
| 400字 | 1枚 | 3〜4段落 | 1か所に絞る |
| 800字 | 2枚 | 5〜6段落 | 2〜3か所 |
| 1200字 | 3枚 | 7〜8段落 | 3〜4か所 |
400字(原稿用紙1枚)の配分
400字では、行程をたどる余裕がありません。心が動いた1か所だけを取り上げ、その前後をつなぐ形にします。配分は「書き出し80字・場面の描写200字・結び120字」が目安です。
短いからといって「朝、バスに乗りました」から始めると、それだけで持ち時間を使い切ります。いきなり山場の入り口から始めてしまうのが、短い紀行文のコツです。
800字(原稿用紙2枚)の配分
もっとも出題されやすい字数です。「書き出し100字・行程1つ目150字・山場300字・行程3つ目100字・結び150字」のように、山場に最大の字数を割きます。
山場の前にひとつ場所を挟むと、移動している感じが出て紀行文らしくなります。逆に全部の見学先を平等に書くと、1か所あたり100字程度になり、どこにも印象が残らない文章になります。
1200字(原稿用紙3枚)の配分
1200字では、旅の始まりと終わりを描く余裕が生まれます。出発前に思っていたことを書き出しに置き、帰り道での心境の変化を結びに置くと、全体がひとつの物語としてまとまります。
中盤は3〜4か所を移動しながら進めます。すべてを同じ調子で書かず、1か所だけ会話文や五感の描写を厚くすると、読み手の集中が続きます。
字数が増えても、心が動いた山場はひとつのままで構いません。増やすのは山場の数ではなく、山場に至るまでの道のりの描写です。
書き出しと結びの文例集|そのまま型として使える
紀行文でいちばん時間を取られるのが最初の一文です。ここは型を借りてしまって構いません。書き出しと結びさえ決まれば、あいだは行程が導いてくれます。
書き出し5パターン
それぞれ「その場面に読者を立たせる」ことを狙った形です。訪問先の名前を入れて、そのまま使えます。
- 情景から:「バスの窓から、瓦屋根の並ぶ町並みが見えてきた。」
- 会話から:「『あれが五重塔だよ』と、先生が指をさした。」
- 驚きから:「教科書で見た大仏は、想像していたよりずっと大きかった。」
- 問いかけから:「千年前の人も、この坂を同じように登ったのだろうか。」
- 日時から:「十月十五日、朝七時。二泊三日の修学旅行が始まった。」
使わないほうがよいのは「ぼくは修学旅行で京都に行きました」という説明から入る形です。間違いではありませんが、続く一文も説明になりやすく、書き手自身が乗りにくくなります。
結び4パターン
結びは「旅の前と後で何が変わったか」を書くと締まります。無理に大きな教訓にまとめる必要はありません。
- 学びで締める:「歴史は覚えるものではなく、その場所に立って感じるものだと知った。」
- 変化で締める:「出発前はただの校外学習だと思っていたが、今は違う。」
- 次への意欲で締める:「今度は家族と、ゆっくり歩いてみたい。」
- 余韻で締める:「帰りのバスの窓には、来たときと同じ町並みが流れていた。」
読書感想文でも同じように書き出しの型が使えます。感想文の組み立て方は、こちらの記事にまとめています。

学年別・紀行文の例文3本

ここからは実際の形を見てみましょう。小学生・中学生・高校生の3本を、それぞれの字数の目安に合わせて用意しました。丸写しではなく、段落の切り替わり方と、事実と心情の並べ方に注目してください。
小学生の例文(遠足・校外学習/約300字)
バスをおりると、しおの少ししょっぱいにおいがした。今日は水族館への校外学習だ。
入り口を入ってすぐ、大きな水そうがあった。イワシの群れが、光を受けて銀色に光りながらぐるぐる回っている。ぼくはしばらく動けなかった。魚が一ぴきずつではなく、大きな一つのかたまりのように見えたからだ。
係の人が「イワシは群れで泳ぐことで、大きな魚に見せているんです」と教えてくれた。弱いからこそ、そうやって身を守っているらしい。
帰りのバスで、水そうの銀色をもう一度思い出した。今度は家族と来て、もっとゆっくり見たいと思う。
小学生の紀行文では、むずかしい言葉を使う必要はありません。においや色といった、その場で感じたことをひとつ入れるだけで、読み手にはしっかり伝わります。
中学生の例文(修学旅行/約600字)
十月十五日、朝七時。二泊三日の修学旅行が始まった。新幹線の窓から見える景色が、少しずつ見慣れないものに変わっていく。
最初の見学先は東大寺だった。門をくぐると、写真で何度も見たはずの大仏殿が正面に現れる。実物は思っていたよりも横に広く、屋根の重さが建物全体にのしかかっているように見えた。
大仏の前に立ったとき、班のみんなが一斉に黙った。誰かが「でかい」とつぶやいたきり、しばらく誰もしゃべらなかった。教科書には高さが十五メートルほどと書いてあったが、数字を読んでいたときの感覚とはまるで違う。首を反らせて見上げないと顔が見えないという事実が、そのまま驚きだった。
案内してくれた人の話では、この大仏は過去に戦火や地震で何度も傷つき、そのたびに手や頭が作り直されてきたという。今見ている姿は、最初のものそのままではないらしい。壊れては直され、また壊れては直され、それでも同じ場所に立ち続けている。そう考えると、目の前の像が急に長い時間を背負ったものに見えてきた。
午後は奈良公園を歩いた。鹿にせんべいを差し出すと、思いのほか強い力で手ごと持っていかれそうになる。さっきまでの静けさとは正反対の時間だったが、この落差もふくめて一日だったと思う。
宿に着いてから、しおりの空白に「もう一度行きたい場所」と書いて東大寺と記した。歴史は覚えるものだと思っていたが、その場所に立って初めて分かることがある。それが、この旅でいちばん大きな収穫だった。
この例文では、東大寺の1か所だけを山場にしています。奈良公園はあえて短く流し、対比として置いているのがポイントです。
高校生の例文(研修旅行/約700字)
出発前の私にとって、その土地は資料集の一ページでしかなかった。地名も年号も覚えてはいたが、それは試験のための知識だった。
朝の便で降り立った空港は、思っていたよりも小さかった。バスに乗り換えて海沿いの道を走る。窓の外には、観光地らしい明るさと、生活の気配とが同じ距離で並んでいた。旅行というより、誰かの日常に入り込んでいる感覚に近い。
資料館では、当時の写真と手紙が時系列に沿って並んでいた。順路の終わりに近づくほど、展示物は個人の持ち物になっていく。名前の書かれた学生服、途中で終わっている日記。ガラス越しに読める文字は、教科書に載っていた文章よりもずっと具体的で、そして短かった。
説明してくださった方は、当時を直接知る人から話を聞き継いだ世代だと話していた。伝えることのむずかしさについて触れたあと、「知らないままにしないでほしい」と言った。その一言が、館内のどの展示よりも長く残っている。
外に出ると、日差しがまだ高かった。同じ場所に立っているのに、来たときと帰るときで景色の意味が変わっている。歴史とは過去の出来事の集まりではなく、今立っている場所の下に積み重なっているものなのだと、そこで初めて実感した。
帰りの機内で、私はノートに要点を書きとめようとして手を止めた。数行にまとめてしまえば、また資料集の一ページに戻ってしまう気がしたからだ。代わりに、見たものをそのままの順番で書いた。この紀行文は、その記録をもとにしている。
高校生の紀行文では、出発前と帰り道で自分の見方がどう変わったかを軸にすると、字数が増えても内容が薄まりません。事実の描写を先に置き、考えを最後に置く順番も守られています。
評価が上がるコツとありがちな失敗
紀行文で差がつくのは、語彙の多さではありません。具体的に書けているかどうかの一点です。ここでは、書き直しのときに効くコツと、多くの人がやってしまう失敗をまとめます。
「楽しかった」で終わらせない言い換え
感想を表す言葉は、そのままでは中身が伝わりません。次の表のように「何がどうだったから、そう感じたのか」まで分解すると、一文の情報量が一気に増えます。
| よくある表現 | 分解して書き直した例 |
|---|---|
| 楽しかった | 班のみんなで地図を回しながら道に迷ったこと自体が、思い出になった |
| すごかった | 首を反らせないと顔が見えない大きさに、しばらく声が出なかった |
| きれいだった | 夕日を受けた瓦屋根が、一列ずつ順に色を変えていった |
| おいしかった | だしの香りが先に来て、口に入れると想像より薄い味だった |
| 勉強になった | 教科書の年号が、目の前の建物と初めて結びついた |
やりがちな失敗5つと直し方
提出前に、次の5点だけ確認してください。どれも書き直しの手間は数分で済みます。
- 行程の丸写しになっている:見学先をすべて書かず、山場に関係する場所だけ残す
- 感想が同じ言葉の繰り返し:上の表の要領で、理由まで書き足す
- 主語が全部「ぼく・私」:見たものを主語にした文を混ぜて単調さを消す
- しおりの情報をそのまま書き写している:自分が確かめたことだけを事実として書く
- 結びが「また行きたいです」だけ:旅の前と後で何が変わったかを一文足す
卒業文集で旅の思い出を書く場合は、紀行文とは組み立て方が少し変わります。文集向けの型はこちらにまとめました。

よくある質問
- 紀行文と作文はどう違うのですか?
-
紀行文は旅の行程(時間と場所の移動)を土台にして、見聞きした事実と心の動きを並べて書きます。作文はひとつの出来事を中心にすえるため、移動の描写は必ずしも必要ありません。
- 紀行文は「です・ます調」と「だ・である調」のどちらで書きますか?
-
学校からの指定があればそれに従います。指定がない場合、小学生は「です・ます調」、中学生以上は「だ・である調」を選ぶと落ち着いた文章になります。大切なのは、途中で混ぜないことです。
- 題名はどう付ければよいですか?
-
「修学旅行の思い出」のような説明的な題名より、山場の場面を切り取った題名のほうが印象に残ります。「首を反らせた十五メートル」「銀色の水そう」のように、本文に出てくる言葉から選ぶと決めやすくなります。
- 書くことが思い出せないときはどうしますか?
-
写真としおりを時系列に並べ、順に見返してください。それでも出てこない場合は、同じ班の人に「いちばん覚えている場面」を聞くと記憶が戻りやすくなります。思い出せた断片は、感想を付けずにそのまま書き出しておきます。
- 会話文は入れてもよいですか?
-
入れて構いません。実際に聞いた言葉を1〜2か所だけ使うと、場面が立ち上がります。ただし会話が続くと台本のようになるため、山場の1か所に絞るのがおすすめです。
- 修学旅行以外でも紀行文は書けますか?
-
書けます。家族旅行、遠足、部活の遠征、祖父母の家への帰省でも成立します。移動があり、その先で何かを見聞きしていれば、紀行文の材料としては十分です。
まとめ
紀行文は、行程という道筋の上に心が動いた場面をひとつ置く文章です。見学先をすべて書こうとすると旅程表になり、感想だけを並べると感想文になります。この二層構造を意識できれば、書き出しの一文はぐっと軽くなります。
手順は5つでした。行程を書き出し、山場をひとつ選び、五感メモで具体化し、型に流し込み、事実と感想を分けて読み返す。字数が変わっても、増やすのは山場の数ではなく、そこへ至る道のりの描写です。
「楽しかった」を「何がどうだったから、そう感じたのか」に書き換える。この一手間だけで、紀行文の印象は大きく変わります。
意見を述べる文章の書き方は、紀行文とは組み立てが異なります。あわせて確認しておくと、課題の種類ごとに迷わなくなります。



コメント