日本には栃木県、群馬県、埼玉県、山梨県、長野県、岐阜県、滋賀県、奈良県の8つの海なし県があります。海がないと聞くと「何か物足りない」と感じる方もいるかもしれませんが、実は海なし県には海のある地域にはない多くのメリットがあるのです。
海なし県に住むとどんな良いことがある?
生活コストを抑えやすい傾向
海なし県の多くは、大都市圏に比べて生活コストが抑えやすい特徴があります。特に住宅費や駐車場代などの固定費が安く済む地域が多く、同じ予算でより広い住まいを確保することが可能です。
埼玉県のように東京都心まで30分程度でアクセスできる利便性の高い地域でも、都心部に比べて家賃や物価が抑えられています。また、地元で生産される農産物が身近に手に入るため、新鮮で安心な食材を手頃な価格で購入できるのも大きなメリットです。
メリハリのある内陸性気候と四季の彩り
内陸部に位置する海なし県は、海風による塩害や潮風の影響を受けないため、建物や自動車の腐食が起こりにくく、長期的なメンテナンスコストを抑えることができます。
気候は、夏は暑く、冬は寒いという寒暖差の大きい内陸性気候が特徴です。(例:埼玉県の熊谷市や岐阜県の多治見市は夏の猛暑で知られます)。この気温差が、美しい紅葉や雪景色といった鮮やかな四季の移ろいを生み出し、同時にお米や果物などの農産物を美味しく育む要因の一つにもなっています。海岸部のような急な天気の変化は少ない一方、夏場の夕立(雷雨)など、山間部特有の気象現象も見られます。
津波・高潮の心配がなく、備えるべき災害が明確
海なし県の最大のメリットの一つは、津波の心配がほぼ不要であることです。海岸線から遠く離れているため、津波が直接的に到達する可能性は極めて低く、この点で大きな安心感を得ることができます。
また、高潮や塩害といった海に起因する自然災害のリスクもありません。ただし、台風がもたらす脅威は風だけではありません。勢力を保ったまま内陸に進んだ台風による大雨は、河川の氾濫や土砂災害といった深刻な被害を引き起こす可能性があります。実際に2019年の令和元年東日本台風では、多くの内陸県で甚大な水害が発生しました。地震や土砂災害、洪水といったリスクを正しく理解し、適切な防災対策を講じることが重要です。
※津波は海岸線から遠い内陸部には直接到達しないため、海なし県では津波による被害のリスクが大幅に軽減されます。ただし、内陸県でも台風による河川氾濫や土砂災害のリスクは存在します。(参考:国土交通省水管理・国土保全局「津波防災のとりくみ」、内閣府防災情報のページ「ハザードマップポータルサイト」)
子育て世代に安心なポイントは?
津波避難の心配がほぼ不要
子育て世代にとって、津波避難計画を考える必要がほとんどないことは大きな安心材料です。保育園や学校での避難訓練も、津波を想定したものではなく、より身近なリスクに対する実践的な訓練に集中できます。
海岸部では常に津波ハザードマップを確認し、避難経路や避難場所を把握しておく必要がありますが、海なし県ではそうした心配が大幅に軽減されます。子どもたちも海の怖さを過度に意識することなく、のびのびと成長できる環境が整っています。
豊かな自然体験が身近にある
海なし県の多くは山や川、湖といった多様な自然環境に恵まれています。子どもたちは四季を通じて山登り、川遊び、湖でのレジャーなど、様々なアウトドア体験を身近で楽しむことができます。
特に栃木県の日光国立公園、長野県の上高地、山梨県の富士五湖、滋賀県の琵琶湖など、それぞれの県が誇る自然スポットでは、都市部では体験できない豊かな自然教育の機会が豊富にあります。星空観察スポットも多く、光害の少ない環境で美しい星空を観察することができます。
地域コミュニティとの距離が近い
海なし県の多くの地域では、地域コミュニティとのつながりが強く、子育て環境として温かい支援を受けやすい特徴があります。都市部に比べて人口密度が低く、近所付き合いも深いため、子どもの見守りや緊急時のサポート体制が自然に形成されています。
地域の祭りや季節行事への参加を通じて、子どもたちは地域の歴史や文化を学び、多世代との交流を深めることができます。こうした環境は、子どもの社会性や協調性を育む上で非常に重要な役割を果たします。
交通アクセスはどう便利?
鉄道・高速道路の結節点になりやすい
海なし県は本州の中央部に位置するため、各方面への交通アクセスの要所となっています。例えば、埼玉県は東北新幹線や上越新幹線、群馬県は上越新幹線、栃木県は東北新幹線が通っており、首都圏と地方を結ぶ重要な交通拠点となっています。
高速道路網も充実しており、関越自動車道、東北自動車道、中央自動車道、東海北陸自動車道などが海なし県を通過し、全国各地へのアクセスが簡単にできます。物流の面でも有利で、これが産業発展や生活の利便性向上に寄与しています。
都市と都市の中間拠点として移動が簡単
海なし県は複数の大都市圏の中間に位置することが多く、どの方向に向かっても比較的短時間でアクセスできます。例えば、群馬県からは東京、新潟、長野方面へ、岐阜県からは名古屋、大阪、富山方面へ、それぞれ2-3時間程度で移動可能です。
この立地条件により、仕事や観光、親族の訪問など、様々な目的での移動が非常にスムーズに行えます。複数の選択肢があることで、時間や予算に応じて最適なルートを選択できるのも大きなメリットです。
中部横断ルートで観光地へもスムーズ
海なし県を通る交通網は、日本を横断する重要なルートとしての役割も担っています。特に中部横断自動車道の整備により、太平洋側と日本海側を結ぶアクセスが格段に向上しました。
これにより、山梨県から静岡県、長野県から新潟県といったルートでの移動が非常に簡単になり、温泉地、スキー場、避暑地などの観光スポットへのアクセスも良好です。週末の小旅行や日帰り旅行の選択肢が豊富で、充実したレジャーライフを楽しむことができます。
自然とレジャーを満喫するには?
山・川・湖でアクティブ体験
海なし県の大きな魅力は、多様な自然環境でのアクティビティが楽しめることです。登山やハイキングでは、奥日光の湿原、上高地の絶景、富士五湖周辺のトレッキングコースなど、レベルに応じた様々なルートが選択できます。
川では渓流釣りやラフティング、カヌー体験が人気で、特に群馬県の利根川、長野県の千曲川、岐阜県の飛騨川などは清流として知られています。湖では滋賀県の琵琶湖でのウィンドサーフィンやヨット、山梨県の本栖湖でのダイビングなど、海とは異なる淡水でのマリンスポーツを楽しむことができます。
星空観察スポットが多い理由
海なし県に星空観察スポットが多い理由は、光害が少ない山間部が多いことと、標高の高い地域が存在することです。特に長野県の野辺山高原、山梨県の清里高原、群馬県の嬬恋高原などは、天文台も設置されている有名な観測地です。
これらの地域では、都市部では見ることのできない満天の星空を観察でき、天の川や流星群も美しく見ることができます。子どもから大人まで、宇宙への関心を深める絶好の機会となっており、天体写真撮影の愛好家にも人気のスポットとなっています。
季節ごとのアウトドアイベント
海なし県では四季を通じて多彩なアウトドアイベントが開催されています。春には桜祭りや山菜採り体験、夏には高原でのキャンプやフェスティバル、秋には紅葉狩りや収穫祭、冬にはスキーやスノーボード、温泉めぐりなど、季節の特色を活かしたイベントが盛りだくさんです。
特に群馬県の尾瀬での水芭蕉観察、栃木県の那須高原での避暑、長野県の軽井沢でのサイクリング、岐阜県の白川郷での雪景色観賞など、それぞれの県が持つ自然の魅力を存分に体験できるイベントが一年中楽しめます。
地元グルメを楽しむコツは?
ブランド野菜と果物
海なし県は農業が盛んな地域が多く、各県で特色あるブランド野菜や果物が生産されています。山梨県のぶどうや桃、長野県のりんごとレタス、群馬県のキャベツとこんにゃく、栃木県のいちごと梨など、それぞれの気候と土壌を活かした高品質な農産物が豊富です。
春にはたけのこや山菜、夏にはトマトやきゅうり、秋には新米と柿、冬には白菜と大根など、季節ごとに最も美味しい旬の食材を地元で直接購入できます。朝採れ野菜の直売所や道の駅では、都市部では味わえない新鮮さと安さで地元の恵みを楽しむことができます。
郷土料理を味わえる道の駅
海なし県の道の駅では、海産物に頼らない独自の郷土料理を味わうことができます。群馬県の水沢うどんやおっきりこみ、栃木県の湯波料理、山梨県のほうとう、長野県のそば、岐阜県の飛騨牛料理、滋賀県の近江牛料理、奈良県の柿の葉寿司など、地域の食材を活かした伝統料理が楽しめます。特に柿の葉寿司は、海から遠い地域で魚を長期保存するための先人の知恵から生まれた料理であり、海なし県ならではの食文化を象徴しています。
これらの郷土料理は、海がないからこそ発達した保存技術や調理法が活かされており、その土地の歴史と文化を味覚で感じることができます。道の駅では地元の食材を使った料理教室やイベントも開催されており、観光と合わせて楽しむことができます。
地酒と地ビールの魅力
海なし県は清らかな水源に恵まれているため、美味しい地酒や地ビールの生産地としても有名です。長野県の諏訪地方、群馬県の沼田地方、岐阜県の飛騨地方などは、特に酒造りが盛んな地域として知られています。
山間部の清流や湧き水を使った日本酒は、海なし県ならではの清冽な味わいが特徴です。また、地元産の麦やホップを使ったクラフトビールも人気で、各県の特色を活かした個性豊かな味わいを楽しむことができます。酒蔵見学やビール工場見学も可能で、製造過程を学びながら試飲を楽しむことができます。
防災面で感じる安心ポイントは?
高潮・塩害リスクが低い
海なし県では高潮や塩害といった海に起因する災害リスクが皆無です。台風による高潮で家屋が浸水したり、強い海風による塩害で農作物や建物が被害を受けることがありません。これにより、住宅や自動車、農業機械などの長期的な保全がしやすく、メンテナンスコストも抑えられます。
特に金属製の設備や機器については、塩分による腐食の心配がないため、海岸部に比べて大幅に寿命が延びます。エアコンの室外機や自動車の下回りなど、日常的に使用するものの耐久性が向上することで、生活コスト全体の削減にもつながります。
風水害の種類を理解し、ハザードマップの確認を
海なし県の多くは標高が高い地域を含んでおり、風水害の種類が沿岸部とは異なります。高台に住むことで河川氾濫のリスクは軽減できますが、山の麓や急な傾斜地の近くでは土砂災害の危険性が高まる場合があります。
住まいを選ぶ際は、津波ハザードマップの代わりに、自治体が公開している「洪水ハザードマップ」や「土砂災害警戒区域」を必ず確認し、その土地が持つリスクを正確に把握することが何よりも大切です。ただし、山間部特有のリスクとして局地的な豪雨による土砂災害や、河川の急激な増水には注意が必要です。各県では適切なハザードマップが整備されており、地域の特性に応じた防災対策が講じられています。住民一人ひとりが地域のリスクを理解し、適切な準備をすることで、より安全な生活を送ることができます。
地域防災計画で学ぶ備え
海なし県の防災計画は、津波以外の災害に特化した実践的な内容となっています。地震、土砂災害、河川氾濫、豪雪など、その地域で実際に発生する可能性の高い災害に対する具体的な対策が盛り込まれています。
例えば、非常用備蓄品の準備では、海岸部で必要な津波避難用品ではなく、山間部での孤立に備えた食料や燃料の確保、停電対策などが重点的に説明されています。また、避難場所も津波避難ビルではなく、土砂災害や河川氾濫を避けるための高台や公民館が指定されており、より身近で実用的な防災知識を身につけることができます。
移住を考えるときの簡単チェックリストは?
仕事探しをスムーズに進める方法
海なし県への移住を考える際、地域の産業構造を理解することが重要です。製造業が盛んな地域(群馬県の自動車産業、長野県の精密機械)、農業が主力の地域(栃木県のいちご、山梨県の果樹)、観光業が発達した地域(奈良県の文化財、岐阜県の温泉)など、それぞれの特色を活かした就職先を探すことができます。
リモートワークが可能な職種であれば、都市部の給与水準を維持しながら海なし県の低い生活コストで暮らすことも可能です。移住前には地域の就職支援センターや移住相談窓口を活用し、現地の雇用情勢や求人情報を事前に収集することをおすすめします。
住まい選びで見落としがちな点
海なし県での住まい選びでは、積雪対策と交通アクセスを重視する必要があります。特に山間部では冬季の積雪が多く、除雪作業や車の冬装備が必要になることがあります。また、公共交通機関が限られる地域では、自家用車が必須となる場合が多いため、駐車場の確保も重要です。
一方で、海岸部では考慮が必要な潮風対策や津波ハザードエリアの確認は不要です。その代わり、土砂災害警戒区域や河川氾濫エリアのチェックが重要になります。物件選びの際は、地域のハザードマップを必ず確認し、自然災害リスクを理解した上で決定することが大切です。
地域コミュニティへの入り方
海なし県の多くの地域では、地域の祭りや行事への参加が地域コミュニティに溶け込む最良の方法です。自治会活動、農作業の手伝い、子ども会の活動など、様々な形で地域の一員として貢献できる機会があります。
移住初期は地域の慣習や人間関係を理解するのに時間がかかることもありますが、積極的に地域活動に参加することで、自然と受け入れられていきます。特に農業体験や伝統工芸の学習など、その土地ならではの文化に触れることで、地域の魅力をより深く理解し、充実した移住生活を送ることができます。
移住前の確認ポイント
- 就職先の確保または通勤手段の確認
- 医療機関やスーパーなどの生活インフラ
- 子どもの学校や保育園の状況
- 冬季の積雪量と除雪体制
- インターネット環境の整備状況
- 地域の防災体制と避難場所
まとめ
海なし県には、海のある地域にはない独特のメリットが数多くあります。津波の心配がない安心感、豊かな自然環境、充実した交通アクセス、独自の食文化、そして温かい地域コミュニティなど、海がないからこそ育まれた魅力にあふれています。
防災面では津波や高潮のリスクがなく、子育て世代には安心して暮らせる環境が整っています。一方で、台風による大雨、河川氾濫、土砂災害といった内陸県特有のリスクもあるため、事前のハザードマップ確認と適切な防災対策が重要です。また、四季を通じて様々なアウトドア活動や自然体験ができ、地元の新鮮な農産物や郷土料理を楽しみながら、ゆったりとした時間を過ごすことができます。
移住を検討する際は、各県の特色を理解し、自分のライフスタイルに合った地域を選ぶことが重要です。海なし県での暮らしは、海への憧れを上回る豊かさと、適切な備えによる安心感を提供してくれることでしょう。
※本記事の情報は2025年6月時点のものです。移住や住居選択の際は、最新の情報を各自治体や関係機関にご確認ください。
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